ハンノキ
2017.01.26 更新
朝は寒気が残り氷点下でしたが,青空が広がり気温も上がってきました。陽だまりでは春の足音が聞こえるようです。今日は春の花に先駆けて花を咲かせているハンノキをご紹介します。(写真1)
「いざ兒ども 大和へ早く白菅の 眞野の榛原手折りて行かむ」(高市 黒人 万葉集)
ハンノキはカバノキ科ハンノキ属の落葉高木で,日本全土に分布するとともに,アジア東部の沿海州から台湾あたりまで見られます。
古くから親しまれてきた樹木で,万葉集にも榛や波里(いずれも読みは「はり」)の名前で数多く詠まれています。
その花は雌雄同株の異花で,長く伸びているのは雄花序です。(写真2・3)雌花序は雄花序がつく花柄の下部についており,紅紫色をしています。(写真4)垂れ下がっている雄花序は肉眼でも見ることができますが,雌花序の観察には双眼鏡か望遠のカメラが必要です。
雌花が受粉すると果実ができますが,やがて木質化してずっと木に残ります。そのオオバヤシャブシの実を小さくしたような実は,今でも花とともに見ることができます。(写真5)
ハンノキの花や実は高所にありますが,リガの森にある近縁種のセイヨウハンノキであれば,眼前で雄花序や実をご覧いただくことができます。(写真6=雄花序 未開花)(写真7=実)
前述のように万葉の昔から親しまれてきたハンノキは,自生以外にも水田の畔に植えられ,刈り取った稲を乾燥させるために利用されてきました。ただこうした農村の風物詩も機械化とともに見る機会が少なくなっています。
ハンノキの名前は開墾を意味する墾(はり)から,墾の木(はりのき)と呼ばれたものが転訛したといわれています。その理由は根に共生する根粒菌が窒素化合物をつくり,それが肥料になること,また地下水位が高いところに生えるため,水田を開墾するために適した場所の目印になったためともいわれています。
ハンノキはさくら園の少し先,ナツツバキ林に下りる階段付近でご覧いただけます。風に揺れる花が春の気配を届けてくれます。