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花・緑情報

アセビ

2017.01.22 更新







 「我が背子に 我が恋ふらくは奥山の 馬酔木の花の今盛りなり」(万葉集 作者不詳)

 早春に花開き愛らしい小花を木一杯につけるアセビは,古来多くの人々に親しまれ,万葉集にも数多く詠み込まれています。そのアセビが園内のあちらこちらで花をつけ,早春の風情を漂わせています。(写真1・2)

 アセビはツツジ科アセビ属の常緑低木で,本州・四国・九州の山地に自生する日本固有種の植物です。

 花序は複総状花序と呼ばれ,何回か分枝して全体が円錐形になり,(写真3)釣鐘型の小さな花を鈴なりにつけます。花の先端は浅く5裂しています。(写真4)花が下を向き先がつぼまっているため分かりにくいのですが,中を覗きこむと長く伸びた花柱が見えます。そして奥にメシベを取り巻くようにオシベがついています。(写真5)

 実は秋にできますが,種子を出した実は長く残り,花とともに見ることができます。(写真6)

 アセビの学名はPieris japonicaで日本固有種を表していますが,属名のPierisはギリシャ神話に登場する詩の女神ミューズに由来する名前だそうです。また英名はJapanese andoromedaとこれもギリシャ神話に出てくる王女アンドロメダの名前を冠しています。これらの名前の由来は定かではありませんが,可愛らしい花によく似合うロマンチックな名前です。

 その名前や花のイメージに合わないのは有毒植物だということで,和名のアセビもその毒性に由来しています。つまり動物が食べると痺れて足が萎えることから「あしび(足癈)」と呼ばれ,それがアセビに転訛したというのが定説です。漢字の馬酔木も「馬が食べると酔ったようになる」所からきています。また奈良公園がアセビの名所であるのはシカが食べないためといわれています。

 毒性はともかく,愛らしく早春を告げる花アセビの本格的な花期はこれからです。冬の陽だまりの中,早い春の兆しをお感じください。