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花・緑情報

ヤブツバキ

2016.12.22 更新








 冬至を過ぎると季節は春に向かって動いていきます。とはいえ二十四節気でも春分までに小寒・大寒など寒そうな日が並んでいます。本当の春はまだ少し先です。それでも木偏に春と書く花,椿が咲き出し園内に輝きを与えています。(写真1)

 「あしひきの 八峯(やつを)の椿つらつらに 見とも 飽かめや 植えてける君」(大伴家持 万葉集)

 ヤブツバキはその変種ユキツバキ・ヤクシマツバキとともに古くから親しまれてきた樹木で,古事記に名前が見られるとともに,万葉集にも9首詠み込まれています。

 ツバキ科ツバキ属の常緑小高木で,その学名Camellia japonicaが示すように日本特産種です。

 漏斗型の花は花弁が5枚で多数のオシベがよく目だっています。花糸は白ですが,黄色の葯と花弁の赤の対比が鮮やかです。オシベの中心に柱頭が3裂したメシベが見えます。(写真2・3)

 花筒の底に大量の蜜が分泌され,昆虫の少ない時期ではありますが,主にメジロなどの野鳥が蜜を目当てに花を訪れ花粉媒介を担います。

 同じツバキ科のサザンカと花がよく似ていますが,咲き方はややつぼまった形のヤブツバキに対してサザンカは平開しています。(写真4)また一番違いが分かる点は花びらが一枚ずつ散るサザンカに対して,ツバキは花全体がポトリと落ちるところです。(写真5)この落ち方はツツジなどの合弁花植物とよく似ています。ツバキ科植物は離弁花ですが,ヤブツバキは離弁花と合弁花の中間なのかもしれません。

 食用や整髪料として利用される椿油はこの種子を搾って得られるものです。園内の木々にも丸くて大きな実がたくさんついていますが,この実が割れて種子がこぼれてきます。(写真6)

 ツバキの語源については諸説ありますが,「光沢がある葉の木」という意味の艶葉木からという説,葉に厚みがあるという意味の厚葉木からという説などそのつややかな葉(写真7)からきているとするものが多いようです。

 ヤブツバキは園内各所でご覧いただけます。これから様々な同種の園芸品種も咲いてくるはずですので,改めてご紹介いたします。