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花・緑情報

ゴシュユの実と秋の鳥

2016.10.27 更新









 本園の北側に広がる多目的広場は3haの広さを持つ芝生広場で,気候のよい頃には家族連れで賑わっています。その多目的広場と通路を隔てて隣接するのが薬樹園です。その名の通り,実や樹皮が生薬として利用されている樹木を集めた場所ですが,その薬樹園でゴシュユが実をつけ,その実を目当てに秋の鳥がやってきています。その一つがムギマキです。(写真1)

 ムギマキはヒタキ科キビタキ属に分類されます。ロシア東部からオホーツク海沿岸などで繁殖し,冬期は中国南部から東南アジアにかけて渡り越冬する渡り鳥です。日本では渡りの途中通過する,いわゆる旅鳥です。春にも日本を通過しているはずですが,本園では秋のこの時期に観察されます。

 姿はキビタキやコサメビタキなどに似ていますが,のどから腹にかけての鮮やかなオレンジ色が特徴です。メスはやや色は薄いもののやはりオレンジ色をしています。(写真2)そしてこれは薬樹園ではありませんが,ブリスベーンの森でものどの部分がオレンジ色の小鳥が見られました。(写真3)これはムギマキの若鳥のように思えます。

 さて,薬樹園のゴシュユには他にもオオルリの若鳥(写真4)やコサメビタキなどもやってきています。この鳥たちの恰好の食べ物になっているゴシュユの実は,鮮やかな赤い実です。(写真5)

 ゴシュユはミカン科ゴシュユ属の落葉小高木で,中国を原産地とし,日本には薬用植物として江戸時代に渡来しました。

 夏には薄黄色の花を咲かせ(写真6=7/23撮影)秋に実をつけますが,実を生薬として利用するために持ち込まれた植物のため,日本にあるのはほとんどが雌の木とされています。(雌雄異株)ただ本園では雄の木も栽培されており,(写真7=雄花)実にはちゃんと種子ができています。

 ゴシュユは漢字では呉茱萸つまり呉の国の茱萸(しゅゆ=グミ)という意味ですが,中国名である呉茱萸を日本語音読みしたものが和名となっています。

  後になりましたが先にご紹介した旅鳥であるムギマキの語源は「麦蒔き」つまり麦(多分小麦と思われます)の種を蒔く時期を教えてくれる鳥という意味だそうです。確かに地域によって差はあるものの,大体この時期が麦蒔きの時期のようです。

 園内では夏鳥の姿を見かけることが少なくなった分,ムギマキのような旅鳥そして冬鳥であるジョウビタキも姿を見せています。(写真8)秋から冬に向かう風情を,紅葉とともに渡り鳥でもお楽しみください。