トップ / 花・緑情報 > 森林植物園のいま(バックナンバー) /

花・緑情報

ツリフネソウ

2016.09.02 更新







 9月を迎えました。9月は長月,「夜長月」からきたという説が有力です。まだまだ残暑は厳しいですが,朝夕はすっかり秋の風情です。園内ではしゃくなげ園入口付近や長谷池に向かう水路付近でユニークな姿のツリフネソウが咲き始めています。(写真1)

 ツリフネソウはツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草で,北海道から九州にかけての低山から山地の湿地や水辺に自生します。

 この帆掛け船を吊り下げたような姿が大変特徴的で,名前の由来でもあります。(写真2)

 それに加えて花の後ろの部分がくるっと丸まっている姿も可愛らしいのですが,この部分にはツリフネソウの戦略が隠されています。(写真3)それはこの部分に蜜がたっぷりと入っていることです。 虫がこの花の蜜にありつくためには花の奥深くまで潜っていかなくてはならず,それが得意なトラマルハナバチに選択的に,そして効率よく花粉を運んでもらうための仕組みがこれです。この部分はつぼみが開花し始めた時からできています。(写真4)

 花の上部にはオシベとメシベがあり,(写真5)花に潜ろうとするハチは花粉を運ぶ役割を担うことになります。なお咲き始めは雄性先熟つまりオシベで,オシベがとれたあとメシベができるため自家受粉も避けられます。

 ツリフネソウの近縁種にキツリフネがありますが,(写真6=7/22撮影)これはツリフネソウよりやや小ぶりで,花の後ろが丸くなっていません。キツリフネはツリフネソウより花期が早いため今はほとんど見られません。

 この花の仲間の園芸植物にホウセンカやインパチェンスがあります。インパチェンスはツリフネソウの学名でもありますが,この仲間は種子が熟すと勢いよく弾け飛ぶのが特徴で,ラテン語の「我慢できない」からきた言葉がインパチェンスです。

 秋風にゆらゆら揺れる帆掛け船。この姿を見ればひと時残暑を忘れそうです。