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花・緑情報

水辺の花〜ミツガシワ〜

2016.04.23 更新







 新緑に包まれた長谷池の水面に緑の風が吹き渡っています。コロロ・カロロという軽やかなシュレーゲルアオガエルの声が響く中,カキツバタが青々とした葉を茂らせ開花の時をまっています。(写真1)あとひと月もすれば青い花で一杯になるはずです。

 そのカキツバタの少し先,池よりの場所で白い花が風に揺れています。それは水辺の植物ミツガシワの花です。(写真2・3)

 ミツガシワはミツガシワ科ミツガシワ属の多年草で,主に山地の沼地や湿地に生息する水生植物です。北半球の亜寒帯を中心に分布し,日本でも北日本の寒冷地に多く見られます。高層湿原として知られる尾瀬にも自生しています。関東や西日本の温暖な地域にも群落が見られることがありますが,これは氷河期に南に分布したものが残ったと考えられています。つまりこの植物は氷河期の遺存植物です。

 花は下から順に咲いていくため,茎の下部は花が終わっていても上部にはまだつぼみが残っています。(写真4)一つ一つの花は花冠が5つに深く裂けています。そしてその裂片の内側に縮れた白い毛をつけており,それが可憐な印象を与えます。(写真5)オシベは5本,メシベは1本です。

 ミツガシワの名前はその三出複葉の葉(写真6)がカシワの葉に似ている,または家紋の三つ柏に似ていることに由来するというのが定説のようです。漢字では「三槲」と書きますが,槲は本来ブナ科のカシワつまり柏餅に使われる葉を持つ樹木のことを指し,柏はヒノキ科のコノテガシワのことをいうようです。いつの間にか混同・誤用されていますが,「カシワの葉に似る」という由来を考えれば「槲」の字を使うのが本来のようです。

 ミツガシワは近づくことができる場所から少し離れた所に咲く小さな花です。双眼鏡などをご用意いただいてこの可憐な花をご観察ください。※双眼鏡は展示館で貸し出ししています。