毎年、世界中で美しい園芸品種が作出され、私たちの目を楽しませてくれるアジサイは、もとになった種類はほとんど日本原産と言っても過言ではありません。日本にはおよそ13種類のアジサイの原種(野生種)があり、その中でも美しい種類が江戸時代にヨーロッパに渡り、海外の人々を魅了しました。
日本には下表のような原種があります。これらには変種や品種等も種々見られます。
植物名 | 学名 | 変種・品種など | |
---|---|---|---|
1 | ヤマアジサイ | H.serrata | エゾアジサイ、ヒメアジサイ他 |
2 | ガクアジサイ | H.macrophylla f.normalis | ホンアジサイ他 |
3 | タマアジサイ | H.involucrata | ラセイタタマアジサイ、ギョクダンカ他 |
4 | ノリウツギ | H.paniculata | ミナヅキ |
5 | ガクウツギ | H.scandens | |
6 | コガクウツギ | H.luteovenosa | |
7 | コアジサイ | H.hirta | |
8 | ヤハズアジサイ | H.sikokiana | |
9 | ツルアジサイ | H.petiolaris | |
10 | リュウキュウコンテリギ | H.liukiuensis | |
11 | ヤクシマアジサイ | H.grosseserrata | |
12 | トカラアジサイ | H.kawagoeana | ※ヤクシマアジサイ の変種説もあり |
13 | ヤエヤマコンテリギ | H.chinensis var.yayeyamensis |
※学名や分類には諸説あります
1.ヤマアジサイ Hydrangea serrata var.serrata
本州宮城県以南から四国・九州まで分布するが、西日本型と東日本型がありその境界は
鈴鹿山脈の尾根とされている。東日本型は白花で西日本型は青花(有色)である。山間部の沢沿いなどに産し、サワアジサイとも呼ばれる。自然の中でも変異が多い。
上段の4個体は西日本型(六甲山自生種。バリエーションが多い)
下段の4個体は東日本型(東のタイプは開花後時間が経つと装飾花に赤味が出るものがある)
2.ガクアジサイ Hydrangea macrophylla f. normalis
房総半島、伊豆半島、三浦半島、大島、三宅島、八丈島の海に面した斜面などに生育し、日当たりを好み、葉は厚く照りがある。ハマアジサイともいわれる。
このガクアジサイがテマリ咲きになったものをアジサイ(狭義)とも呼ぶが、いろいろなアジサイを総称してアジサイ(広義)と呼ぶので、区別するためにホンアジサイ(Hydrangea macrophylla f. macrophylla)と呼んでいる。
シーボルトが江戸時代に持ち帰り、Hydrangea otaksaの名でフローラ・ヤポニカに発表したものはホンアジサイと言われている。
3. エゾアジサイ Hydrangea serrata var. yesoensis
日本の中で最も雪深いところに分布し、北海道から本州で確認されている。北海道では根室付近では未確認。山陰辺りではヤマアジサイとの区別が難しく、中間型ではないかとも言われる。冬季雪に埋もれるため寒風や乾燥に弱く、積雪のない所ではやや栽培が難しい。空色のブルーが美しい。
4.ヒメアジサイ Hydrangea serrata var. yesoensis f. cuspidata
信州の民家で古くから栽培されていた美しい手まり咲きのアジサイを、牧野富太郎が発見し、‘ヒメアジサイ’として発表した。1880年にヨーロッパに導入されたが、ヨーロッパは土壌環境の違いにより赤色に発色し ‘ロゼア’と呼ばれ、多くの品種改良の親品種の一つとなった。
野生の自生地は確認されていない。
上記両者とも六甲山でよくみられる。ヤマアジサイより開花期がやや早く、5月末ころから咲き始める。コアジサイは両性花のみで花に香りがある。両者の自然交雑種をアマギコアジサイという。
タマアジサイは関東地方でよく見られる。蕾が球状であることが名前の由来。
アジサイ属の植物は海外にも50種以上分布していますが、北米と南米、東南アジアでは数種類で、他はほとんど中国にあるようです。このうち観賞用として出回っているものは北米産のカシワバアジサイやアナベル、中国産のアスペラなど数種類です。
名前の通り、葉がカシワの葉の様に切れ込みがある。北米東南部原産で、穂状に咲き、写真左の一重のタイプは香りがある。写真右の八重咲は豪華で人気がある。日本のアジサイよりやや早く咲く。
近年管理が容易で人気の高い白いアジサイはアメリカノリノキのテマリ咲きの品種のアナベル。原産は北米南東部で原種(写真左)は装飾花も小さくて少なく観賞価値は低い。
世界にはあじさいの仲間(アジサイ属)の植物が70種程度あるとされており、日本にはそのうち13種、北南米、東南アジアに数種類その他の50種類近くは中国原産ですが、海外種のほとんどは装飾花または両性花も白色のものが多く、現在の色とりどりなアジサイは日本のヤマアジサイ、ガクアジサイからもたらされたものです。
江戸時代に日本を訪れたプラントハンターたちは、さぞかし日本のアジサイを見て衝撃を受けたに違いありません。
自然の状態でも多くの変異があり、観賞価値の高いあじさいはヨーロッパに持ち帰られ、多くの美しい品種が作り出されました。それらの品種が日本に逆輸入されたものを一般に西洋アジサイやハイドランジアと呼び、流通していますが、アジサイは決して西洋のものではなく、日本が世界に誇れる美しい花木の一つなのです。
【神戸市立森林植物園のアジサイ展示】
当園では日本の自然状態で主に青色系になるヒメアジサイやガクアジサイを基にした品種をメインのあじさい坂に植栽しています。
あじさい園では各種原種をはじめ、ヤマアジサイ‘シチダンカ’や‘ロッコウヤエデマリ’など六甲山に縁の深い種類を中心にヤマアジサイの優良な品種がご覧いただけます。
また、ホンアジサイやガクアジサイ系の古品種も各所に植栽するとともに、保存園や苗圃などで絶やさぬように保有し、アジサイの育種のストーリーを感じていただければと思います。