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花・緑情報

コウヤボウキ

2016.10.13 更新







 「初春の初子(はつね)の今日の玉箒 手に取るからに 揺らく玉の緒」(大伴家持 万葉集)

 これは新春を寿ぐ句ですが,玉箒(たまはばき)はコウヤボウキを束ねてつくったほうきで,コウヤボウキの古名でもありました。そのコウヤボウキが今園内で花を咲かせています。(写真1・2)

コウヤボウキはキク科コウヤボウキ属の落葉低木で,関東以西に分布し,明るい雑木林の林床や林縁に自生します。

 一見草本に見えますが,よく枝分かれして細い枝を四方に伸ばし,50〜100cmほどに成長する木本植物です。茎を見るとたしかに木質化しています。(写真3)ただ茎は2年しかもたず,草本と木本の境界といえるかもしれません。

 花はキク科植物らしく枝先に頭状花序を一つつけます。この花序は筒状の花が10以上集まったもので,白い花弁は深く5つに裂けています。そしてその花弁の先が丸まっている姿はなかなか愛嬌があります。(写真4)

 花の基部は総苞片が重なり円柱形になっています。(写真5)そして花からは紫の花柱がでていますが,これはメシベと数本のオシベが集約されたものです。(写真6)

 コウヤボウキの名前は,その昔高野山で果樹や竹の栽培が禁止されていたため,この木を束ねてホウキにしていたことに由来します。

 冒頭の大伴家持の句は,初子(年の初めの子の日)に宮中で天皇より玉箒を賜った際に詠まれたものですが,この玉箒は正倉院に保存されているそうです。

 コウヤボウキは長谷池周辺やしゃくなげ園奥の山道などでご覧いただけますが,天津の森から依留亭にむかう道筋でも多く見られます。(依留亭にはお入りいただけません)万葉に詠われた玉箒を思い浮かべながらその風情をお楽しみうください。