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花・緑情報

尾花の下の思い草〜ナンバンギセル〜

2016.09.16 更新






 昨夜は十五夜でした。雲は多かったものの,切れ間から満月を垣間見た方も多いのではないでしょうか。そのお月見に欠かせない植物がススキです。ススキを飾るのは収穫に感謝するという意味と魔除けという意味があるようですが,秋の夜風に揺れるススキは日本の情緒を感じさせてくれます。秋草の小径でもすっかりススキの穂が出そろいましたが,その足元でもの思うように咲いているのがナンバンギセルです。(写真1・2)

 古来「思い草」の名前で親しまれてきたナンバンギセルは,ハマウツボ科ナンバンギセル属の一年草で,ほぼ日本全土に自生し,東アジア一帯にも分布しています。他の植物の根に寄生し,そこから栄養をとって生育する寄生植物です。鱗片状の葉は持っていますが,葉緑素はなく目立ちません。

 寄生主はイネ科やカヤツリグサ科などの単子葉植物ですが,主にはススキで,和歌では「尾花の下の思い草」と対句のように詠まれています。

 「道の辺の 尾花が下の思い草 今さらさらに何をか思はむ」(万葉集 詠み人知らず)

 花柄の先にふくらんだガクがあり,そこから淡い紅紫から青紫の花を一輪咲かせます。(写真3)花の中を覗くと黄色く丸いものが見えますが,これはメシベの柱頭です。(写真4)

 ナンバンギセルの名前は,かつて日本人が南蛮人と呼んだポルトガルやスペインの船員がくわえていたマドロスパイプの形をこの花に見立てたものです。

 爽やかな秋風に揺れるススキ(写真5)の足元にひっそりと咲くナンバンギセル。そのもの思うような風情をお楽しみください。