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花・緑情報

キカラスウリ

2016.07.24 更新








 「夏草や 兵どもが 夢の跡」

 古戦場に立った芭蕉は,生い茂る夏草に感慨を掻き立られましたが,夏の草いきれから草むらを駆け回った少年時代を思い起こす方もおられるかもしれません。夏草茂るこの時期はつる性植物も繁茂しており,一つの木に何種類ものつる植物が絡みついている姿を見かけます。その中でも特徴ある花を咲かせているのがキカラスウリです。(写真1)

 ウリ科カラスウリ属の多年生草本で,北海道南部から四国・九州まで幅広く分布しています。

 枝などに絡みつきながら伸びた茎の途中から花柄を出し,その先に白い花をつけます。(写真2)その花は5弁で縁が糸状に裂けておりレースのように見えます。(写真3)

 この種は雌雄異株で,雌花は子房の部分が膨らんでいるため(写真4※別の場所の株)雄花・雌花は容易に判別できます。写真5は雄花です。3個あり合着しているオシベは,長いガク筒に隠れてほとんど見えません。

 開花が始まるのが夜というのも特徴的で,花粉の媒介は夜行性のスズメガが担っています。この特徴あるレースの服をまとっているような姿も,ガに目立ちやすいためといわれています。

 カラスウリ類の多くは朝には花が萎んでしまいますが,キカラスウリは昼近くまで花が開いていることが多く,本園で花を見かけるのはほとんどがキカラスウリです。秋になると絡みついた木からぶら下がるように丸い実をつけますが,この実は成熟すると黄色くなり,それがキ(黄)カラスウリの名前の由来です。(写真6=2015/12/5撮影)ちなみにカラスウリは熟れると赤くなります。

 カラスウリは漢字では烏瓜と書きますが,カラスがこの実を好むわけではなく,その赤い実を中国渡来の朱墨の原料である辰砂になぞらえて,唐朱瓜(からしゅうり)と呼んだことが語源といわれています。

 キカラスウリは自生種ですので探せば様々な場所にあるかもしれません。お伝えしたものはトチノキ林入口付近にあるヒラドツツジの茂みに絡みついていました。(写真7)雌株は西洋あじさい園で見られたものです。