アセビ
2016.01.12 更新
「磯の上に 生ふる馬酔木を手(た)折らめど 見すべき君が 在りと言はなくに」(大伯皇女 万葉集)
早春に花開き,愛らしい小花を木いっぱいにつけるアセビは,万葉の昔から人々に親しまれてきました。暖冬傾向の今年は例年より早い1月上旬に開花し,早い春の兆しを運んできました。(写真1・2)
アセビはツツジ科の常緑低木で日本特産種です。釣鐘型の小さな花を鈴なりにつけ,(写真3)花の先端は浅く5つに裂けています。(写真4)花が下を向いているので分かりにくいのですが,そっと手に取って逆さにしてみると長く伸びた花柱が見えます。そしてその奥にメシベを取り巻くようにしてオシベがついています。(写真5)
実は秋にできますが,種子を出した実は長く残り花とともに見ることができます。(写真6)
アセビの学名はPieris japonicaで日本の固有種であることを表していますが,属名のPierisはギリシャ神話に登場する詩の女神ミューズに由来する名だそうです。また英名はJapanese andoromedaとこれもギリシャ神話に出てくる王女アンドロメダの名を冠しています。アンドロメダというと星座や銀河の名前でご存じの方も多いと思います。これらの名前の由来は定かではありませんが可愛らしい花に似合うロマンチックな名前です。
その名前や花のイメージに似合わないのは有毒植物であるということで,和名のアセビもその毒性に由来しています。つまり馬が食べると痺れて脚が萎えることから「あしび(足癈)」と呼ばれ,それがアセビに転訛した・・というのが定説です。漢字の馬酔木は当て字です。また奈良公園がアセビの名所であるのはシカが食べないためだといわれています。
毒性はともかく愛らしく早春を告げる花アセビはこれから本格的な花期を迎えます。冬の陽だまりの中で春の兆しをお感じいただければと思います。